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● 再生自然エネルギー
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毎日新聞 2011年8月3日 2時30分(最終更新 8月3日 9時27分)
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20110803k0000m070149000c.html
社説:再生可能エネルギー 原発代替は十分可能だ
原発依存からの脱却は短時日ではできない。
政府は「短期」「中期」「長期」に分けて考えるという。
基本的に賛成だ。
現実的なロードマップを描くには時間軸の設定が不可欠である。
短期的には天然ガスによるガス火力発電にシフトするほかない。
火力発電所の建設には用地選定まで含めれば通常10年ぐらいかかる。
直ちに着手すべきだ。
天然ガスをめぐる状況は一変している。
米国で頁岩(けつがん)中のシェールガスを採取する方法が確立し生産量が急拡大した。
中国を含め世界中で開発が進んでおり、国際エネルギー機関(IEA)は2030年までに、世界のガス消費量は50%増加するという。
「天然ガスの時代」だ。
◇当面はガス火力で
脱原発に踏み切ったドイツもガス火力で穴埋めする。
しかし、需要の拡大で価格の上昇は必至だ。
ガスの購入契約の保全だけでなく、ガス田採掘の権益拡大に努めるべきだ。
国家的支援を強化する必要がある。
石炭火力発電は化石燃料の中で二酸化炭素の排出量が最も多いが、コストが安く世界各地から安定的に調達できる。
我が国の電力の約25%を占める。
電力の安定供給のため、石炭火力も維持していく必要があるだろう。
ドイツは41%が石炭火力。
日本よりずっとその比率が高い。
再生可能エネルギーによる発電量が増加するまで、火力発電で原発の穴を埋めていくほかないということである。
ただ、これにはふたつ問題がある。
①.コスト上昇と
②.温室効果ガスの排出量の増加
だ。
日本エネルギー経済研究所の試算では来年度、全原発が停止すると、
燃料輸入費は年間3兆4730億円増加し
1世帯当たりの月額電気使用料は1049円、
産業用電気料金は36%
上昇する、という。
産業界は電力不足が恒常化し電気料金が上昇すれば、海外への生産拠点の移転が増え産業の空洞化が進むという。
電力多消費型経済から21世紀型省エネ経済に転換する好機という見方も可能だが、失業の急増など経済の激変は避けたい。
そもそも、空洞化問題はエネルギーコストだけでなく円高の進行や生産インフラの不備、高度教育を受けた人材の不足、さらに高い法人税、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を決められない政府の指導力不足など、複雑な要因がからんでいる。
政府はビジネス支援の旗幟(きし)を鮮明にし、きめ細かく手を尽くさなければならない。
原発依存度が低下すれば、温室効果ガスを90年比25%削減するという政府目標の達成は難しい。
目標を見直すべきだ。
「ポスト京都」では途上国に温室効果ガスを低減する機器を輸出すれば、それが日本の温室効果ガス削減にカウントされるような新たなメカニズムが必要不可欠だ。
外国から税金で余剰排出枠を買い、つじつま合わせする京都方式の単純延長だけは避けなければならない。
「中・長期」では再生可能エネルギーの開発・普及である。
ドイツの脱原発政策は再生可能エネルギー分野の覇者を目指す戦略とセットだ。
日本の環境技術はドイツにひけをとらない。
日本こそ「環境エネルギー革命」の勝者になる潜在力がある。
環境省の試算では、国土をめいっぱい利用すれば2030年、再生可能エネルギーによる発電が年間約3300億キロワット時も可能だという。
現在の全発電量の約3割、原発の従来の発電シェアに相当する。
理論的には再生可能エネルギーで原発の代替が十分可能なわけだ。
達成は容易でないが努力目標にしたい。
その中で日本では太陽光発電が先行してきた。
かつては世界一の発電量だったこともある。
太陽光パネルで発電し電気自動車の蓄電池に蓄えるなど、さまざまな試みがなされている。
発電コストの高さが難点だが普及とともに低下するだろう。
◇何よりも省エネを
風力発電はコストが安く世界的には自然エネルギーの主力だが、日本は世界12位。
騒音など課題も多いが東北地方を筆頭に潜在力は最大だ。
遠浅の海の少ない日本の場合、浮体式の洋上発電が有望だ。
また、安定電源になりうる地熱発電、
小河川の中小水力発電
も地産地消型の電源として推進すべきだ。
自然エネルギーは日照次第、風次第で不安定という欠点がある。
電力会社が電力網への受け入れを渋ってきた理由だ。
その対策として、各電力会社間の電力融通の容量を拡大するとともに、電力が不安定になるのを防ぐ電池の設置を急ぐべきだ。
長期的には電力の地域独占の見直しなども検討する必要がある。
そして、何より省エネが重要だ。
日本エネルギー経済研究所の試算では、
白熱灯をすべて発光ダイオード(LED)照明に交換するだけで原発4基分の節約
になる。
「省エネは創エネ」
と言われるゆえんだ。
われわれの次の世代は今以上に資源の有限性に突き当たる。
少ないエネルギーで効率的に動く日本にしなければならない。
「分散型」「地産地消型」のエネルギー構造に組み替えるほかない。
それには再生可能エネルギーが最も適している。
次世代の安全・安心のため行動を急ごう。
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『
ECO JAPAN 2011年8月3日
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20110729/107085/?P=1
太陽電池に相次ぐ新技術、変換効率向上への戦い続く
福島原発の事故以来、再生可能エネルギーの代表格である太陽電池の新技術開発に関する新聞記事が増加しているように思われる。
直近では、2011年7月19日の朝日新聞朝刊が、三菱化学の「塗る太陽電池」を記事にした。
【薄膜シリコン並みの有機薄膜太陽電池も】
「塗る太陽電池」の正体は有機物半導体を使った有機薄膜太陽電池である。
有機薄膜太陽電池はエネルギー変換効率の低さが実用化の課題とされてきたが、三菱化学は10.1%という薄膜型シリコン太陽電池と同程度の効率を実現した。
有機薄膜太陽電池は、p型有機半導体とn型有機半導体を接合した構造になっている。
同社はp型にベンゾポルフィリン、n型にフラーレン(C60)誘導体を使って効率を高めた。
この新技術は、有機半導体を溶剤に溶かし、自動車の車体や家の屋根や外壁、カーテンなどに塗布し乾燥させれば太陽電池として働く。
もちろん印刷することもできる。
ガラス基盤を必要としないため厚さは1mm程度、重さも結晶シリコン太陽電池の10分の1程度で済む。
製造コストも量産が進めば従来品の10分の1程度になるそうだ。
2011年4月3日の日経新聞朝刊も、この三菱化学の技術を紹介しており、その時点での変換効率は9.2%であった。
日経の記事は、この技術が東京大学との共同研究であること、2015年にはエネルギー変換効率を15%まで高めること、同社が2015年に太陽電池関連事業で200億円の売り上げを目指すことなどを伝えている。
東日本大震災前の記事ではあるが、2011年1月24日の日経新聞夕刊は、有機薄膜太陽電池の表面形状を工夫することで変換効率を上げた取り組みを紹介した。
産学官が連携して設立した技術研究組合BEANS研究所に参加する九州大学、パナソニック電工、リンテックのチームによる成果で、薄膜を形成する基板の表面に直径40ナノメートル(ナノは10億分の1)の突起を多数設けることで変換効率が6%程度まで向上するという。
また、2011年5月16日の日刊工業新聞は、有機半導体のp型とn型の境界面の性質を制御することで電池の出力電圧を従来の1.5倍である0.9Vに上げることができたとする東京大学但馬啓介講師らの成果を紹介した。
【有機薄膜太陽電池に色素増感作用】
有機薄膜太陽電池と並んで将来を嘱望されるのが色素増感型太陽電池である。
色素増感型太陽電池については、この連載でも2008年1月に取り上げた。
色素増感型太陽電池はメッキや電池に代表される電気化学反応を応用した発電システムである。
スイス連邦工科大学のグレッツェル教授が1991年に発明したといわれる。
電池の構成は、透明電極に固定した酸化チタン微粒子に色素分子を吸着させたマイナス電極と、白金のプラス電極をヨウ素溶液に浸している。
光が当たると、マイナス極側では、色素分子の電子が励起されて酸化チタン電極に移り、色素分子がヨウ素溶液から電子を奪う。
一方、プラス極ではヨウ素溶液が白金電極から電子受け取る。
プラス極とマイナス極を電線で結べば、プラス極からマイナス極に電気が流れる。
日本で本格的な研究が始まったのは99年である。
構造的に平面の電極の間に電解質溶液を挟むため、液漏れしやすいという問題があった。
これも震災前の記事ではあるが、2011年3月4日の科学新聞は九州工業大学の早瀬修二教授と新日鐵化学が円筒状の電極を採用することで、液漏れを防ぎ耐久性を向上させることに成功したと伝えた。
また、電池が平面だと、面に対して光が垂直に当たればいいが、斜めに当たるとその分効率が落ちるという問題もあった。
円筒を採用することで入射光は屈折して内部に集まるという利点もある。
色素増感型太陽電池の場合も、エネルギー変換効率の向上が大きな研究課題である。
2011年6月22日の日刊工業新聞は、東京大学の瀬川浩司教授らの研究グループが波長700ナノメートル以上の光を吸収しやすい色素を開発し、既存の色素を使った電池と新しい色素の電池を重ね合わせることで11.3%の変換効率を得たと報じた。
これまでの世界記録は発明者であるグレッツェル教授による12%だが、電極の構成材料の一つである酸化チタンを改良すれば記録更新も可能だという。
有機薄膜太陽電池に色素増感作用を持たせるという研究もある。
2011年5月12日の化学工業日報は、京都大学の大北英夫准教授らのグループが有機薄膜太陽電池に複数の色素を加えることで、利用できる光の範囲を広くするのに成功したという研究成果を紹介した。
赤外線と紫外線を吸収する色素を加えることで、赤外線から可視光、紫外線までの広いスペクトルを電気に変換できるようになった。
大北准教授らは有機半導体として、冒頭の三菱化学とは違ってプラスチックを使っており、従来は可視光しか利用できなかった。
旧聞に属するかもしれないが、2010年9月6日の日経新聞夕刊は、シャープがレンズで集めた強い光を太陽電池に照射することでエネルギー変換効率 42.1%を達成したと報じた。
電池は、変換効率が高く宇宙での発電などに実用されている化合物半導体を3種類重ねて、利用できる光の範囲を広げた。
これに、レンズで集めた太陽光を当てて効率を測定した。
記事によれば、それまでの世界記録は米国企業による41.6%だったが、シャープがこれを破ったという。
シャープは2014年までに45%を達成するとしている。
この記事の続報ともいうべき話が2011年6月1日の日経新聞朝刊に掲載された。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が欧州連合と集光型太陽電池開発の共同研究を開始し、シャープや大同特殊鋼などが参加するという。
2014年までに45%以上のエネルギー変換効率を実現することが達成目標になっている。
東京大学発のベンチャー企業であるスマートソーラーインターナショナルも集光型の太陽電池を開発した。
2010年10月13日の日経新聞朝刊の記事である。
直径8cmのガラス管の中に太陽電池を収め、周囲に取り付けた反射鏡で光を集める。
ガラス管に代替フロンなどの冷媒を流して電池を冷却する。
太陽電池は高温になると効率が著しく落ちる。
集光型ではどうしても高温になってしまう。
冷却することによって50℃以下に抑えることができるそうだ。
冷媒で集めた熱は空調などの熱源に利用できる。
【量子ドット太陽電池で変換効率75%も】
また、2011年4月25日の日経新聞朝刊は、東京大学の荒川泰彦教授とシャープがコンピューター解析で変換効率が75%以上の太陽電池を実現する方法を見つけたと伝えた。
半導体の結晶に数ナノメートルから20ナノメートルの微細構造を作ると、電子を閉じ込める性質がある。この構造を量子ドットと呼ぶ。ドットの大きさで電子が吸収する光の波長を変えることができる。
荒川教授らは、量子ドットを敷き詰めた面を何重にも重ねて厚さ10マイクロメートル、マイクロは100万分の1)程度の電池を構成する。
量子ドットの配置などを最適化することで赤外線も電気に変えることができるようになり、高効率を実現できるという。
太陽電池にも次々と新しい技術の提案がなされている。
日本社会が脱原発の方向に動くか否かは別として、自然エネルギーを最大限活かすことは極めて重要である。
自然エネルギーの柱の一つである太陽電池の課題は、電池製造のコストダウンとエネルギー変換効率の向上である。
課題解決に向け活発な技術的提案があることは頼もしい限りである。 』
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